日本バドミントン協会への緊急の申入れ(9/10)

2018年9月10日、今井彰宏代理人は日本バドミントン協会(日バ)に対し、緊急の申し入れを行いました。

 代理人は、同申入れの中で、株式会社再春館製薬所がルネサス時代に得た選手の賞金から中抜きをしていたことを明らかにしました。また、この再春館の中抜き行為に法的な正当性を与えることは困難であるとの見解を表明しました。


申入書
2018年9月10日

公益財団法人日本バドミントン協会 御中
会長  綿貫民輔様 事務局長 丹藤勇一様

今井彰宏代理人弁護士 神谷慎一

謹啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

 本日,貴協会は,今井に対し,除名を含む重い処分を科す方向である旨の報道に接しました(https://www.nikkansports.com/sports/news/201809090001000.html)。  事実であるとすれば,今井に対して十分な弁明の機会を与えていないと言わざるを得ません。

 確かに,貴協会は,倫理委員会を組織して今井からヒアリングを実施しました。しかし,当職の2018年8月27日付け申入書で申し入れたとおり,最低限,今井には堀川案件について再度の事情説明の機会が与えられる必要があります。

 また,貴協会に対しては,繰り返し適正手続の履践を求めて参りました。すなわち,「スポーツ界におけるコンプライアンス強化ガイドライン」別紙3・処分手続規程は,事実調査を終えた場合,審査対象者への事実調査結果資料一式送付(13条),同資料一式発信後3週間の弁明書提出期間(14条),弁明書と別に直接弁明・意見を聴く機会の設定(15条)を定めており,今井も当然これら手続きの履践を貴協会に求めてきました。そして,とりわけ,再春館製薬所の4月7日意見交換会での配布資料,4月13日付け告発状及び調査報告書を必ず開示することを求めてきました。なぜこれらの手続が求められるのかについても,どのような資料によってどのような事実が認定されたのかが分からなければ十分な防御ができないことを繰り返し説明してきたところです(丸山幸司代理人の2018年4月12日付けご連絡,当職の2018年5月14日付け申入書,同2018年7月13日付け事情説明補充書,前記8月27日付け申入書)。

 すでに指摘したとおり(当職の2018年5月26日付け申入書),スポーツ権保護のためには,スポーツに関する紛争の迅速適正な解決が求められ,仲裁等の中立性および公正性が確保されなければならないと考えられます(スポーツ基本法15条)。貴協会自身も,スポーツに関する紛争を公平で透明な手続で迅速かつ適切に解決する義務を負っていると解されます(日本スポーツ協会加盟団体規程第12条第4項,JOC加盟団体規程第9条第7号)。そして,スポーツ仲裁機構での紛争解決が公平・透明・迅速・適切であることは,今や我が国スポーツ界の常識であり,貴協会も自動応諾条項を採択しているところです(JOC加盟団体規程第9条第8号,貴会平成24年9月18日・第322回理事会決定)。よって,貴協会は,前記ガイドラインを尊重すべき立場にあります。

 したがって,今井に対する不利益処分を科すのであれば,まず,事実調査を尽くす必要があります。その上で,事実調査資料一式を今井に送付の上,3週間以上の機関をおいて弁明書を提出する機会を設け,さらに直接弁明をする機会を経た上で,処分審査手続に入るべきであり,あらためて,これら手続の履践を強く求めます。

 なお,今井を告発した再春館自体が金銭的不正行為を行っていたことが分かりました。すなわち,選手がBWFから得た「賞金」は,例年だと,翌年の8月から10月頃,貴協会を経て各地方協会に振り込まれます。2014年にルネサスの選手が得た賞金は,翌2015年8月から10月頃に,貴協会から熊本県バドミントン協会に支払われ,さらに,熊本県バドミントン協会から再春館に振り込まれたはずです。その額は,数百万円であったと推測されます(熊本県バドミントン協会への振込額は,貴協会には明らかなはずです。)。  再春館は,振り込まれた賞金から20%又は10%を控除し,残りを選手らに支払ったにすぎませんでした。いまなお,この中抜きした賞金は選手には支払われていないようです。

 しかし,上記のような再春館の中抜き行為に法的な正当性を与えることは困難です。再春館と選手らの雇用契約は,ルネサスとの雇用契約関係がそのまま再春館に移転したはずで,賞金の一部を再春館が差し引く旨の条項は無かったはずです。しかし,このような条項がなければもちろん,仮にあったとしても,それが適用されるのは再春館の従業員としての選手活動で得た賞金に対してであって,2014年のルネサスの選手活動で得た賞金に適用される理由はありません。そのようなことを認めれば,入社時に選手の個人資産を差し出させることになるのと同じだからです。そもそも,そのような中抜きを認める条項を雇用契約に入れること自体が違法とされる疑いもあります。

 また,再春館は使用者であり,通常,労働者である選手が使用者の中抜きに対して真摯に同意することは有りえません。そもそも,ルネサス時代の賞金は,再春館入社前に選手が有していた個人資産と言うべきで,BWFからの支払時期が再春館入社後であったに過ぎません。そのような個人資産を合理的な理由も無く再就職先の使用者に支払うような契約を真摯に取り交わすなどと言うことは考えがたいところです。

 今井は,NECの時代から,少ないバドミントン部の活動に宛てるため,賞金の一部を預かってきました。選手らに理由を説明して資金提供を求め,選手らには異議を述べる機会を与え,選手らの真摯な承諾を得るように努めており,今井が無理に賞金の一部を中抜きしたことはありません。今回問題視されている2015年12月25日の振込は,それが「賞金」ではなく「出場料」であったことから,熊本県バドミントン協会から取り扱いについて今井に問い合わせがあったもので,今井は,貴協会に賞金ではないことの確認をした上で,賞金でなければ従前どおりの取り扱いにされたい旨返答したものの,それから一定の時間が経って振込がなされ,振り込んだことの連絡もなく,選手からの問い合わせもなく,日本リーグや全日本総合のような大会が続いて多忙であったこともあり,振込自体を失念してしまったものです。失念すること自体に批判を受けるのはやむを得ませんが,賞金全額を黙って自分のものにしようとしたものではありません。そして,再春館から指摘を受けて失念を知ったあとは,直ちに同額を渡しています(ただし,渡した先は支払い要求した再春館です。)。 このように,再春館と比較すれば,今井だけが除名のような重い不利益処分を受けるのは均衡を失します。

謹白